けだものとあそぼう・1

ユキヒロをもらってきたとき、わたしはまだ実家に住んでいた。
やつはまだ遊びたい盛りのいわゆる「中猫」だった。
わたしの実家は、ちょっとつくりが変わっていて、玄関からどん詰まりまで一直線に長い廊下が通り、その両側に部屋やトイレ・バスなどが並ぶというまるで旅館か何かのような、細長い平屋造りだった。
その長い廊下は、猫のかっこうの運動場所になった。
おもちゃをキック・パンチ・噛み技で攻撃したあと突然ダーッと走り出し、廊下のいちばん端まで行っては物陰に隠れ、敵(おもちゃ)が動くのを待って(実際は人間が動かすのだが、ケダモノ頭にとっては「生きている敵」にしか見えないのである)、瞳孔全開で尻をふりふり狙いを定める。
はじめは面白いしかわいいのでつきあって、いいタイミングでおもちゃを放ってやったりするが、やがて人間のほうは飽きてくる。この、猫の「狙い定め」の時間というのが意外と長いのだ。ひどいときには、隠れた物陰で新しい「敵」を発見し(要するに、ゴミでもなんでもいいのである)、勝手にそっちに夢中になっていたりする。
あるときわたしはふと、「ずーっとおもちゃが動かなかったらやつはどうするのだろう」と考えた。
そこで、やつが隠れてもおもちゃを投げてやらずに、自分もこちら側の物陰に隠れて様子をうかがうことにした。
すると、わりとすぐにやつは不安になったらしく「アーン、アーン」と鳴きながら物陰から出て、長い廊下をちまちまとこちらに向かって歩いて来た。
その姿を見ていたら、ふとわたしは魔がさした。
やつがわたしのかくれている戸のすぐ裏までたどり着いたのを見計らって、「わっ」と言いながら飛び出してみたのである。案の定やつは、50センチぐらい飛び上がってそれから一目散に逃げていった。
嚇かしすぎてストレスになったらまずいな、と思わなくもなかったが、しかしやがてそんな心配も無用になった。やつはその後もまたこりずにおもちゃを襲っては隠れ、遊びが途切れると「アーン、アーン」と催促に来る。わたしがまた「わっ」とやると飛び上がって逃げていくが、適当な物陰に逃げ込んで、顔半分だけ出してこちらをうかがっている。その片目は瞳孔全開でキラキラになっている。
どうやらこの恐怖刺激をやつは、新しい「こわおもしろい」遊びとして気に入ったようだった。
それからやつは、わたしが隠れるのを楽しみにするようにまでなった。「わっ」とやられるのをわかっていて、わたしが隠れていそうな物陰を「ドキドキ、ワクワク」という顔でのぞいて歩く。
遊びもこれくらい対等になってくると面白い。
そしてある日。わたしは外出から帰ってきて、まったく無防備に廊下を歩いて自分の部屋に向かっていた。
すると突然、暗闇から飛び出してきた「何か」に足をガッとつかまれ、「がぶり」と噛まれた。やつだった。何の断りもなく「遊び」を開始し、油断している人間を待ち伏せしていたのだ。
思わず「やりやがったなてめー!」と言うと、やつは「へへん」という顔でダーッと逃げていった。その手にのるかい、と思ったわたしはわざとやつを追いかけずに、手前の物陰に隠れた。そこでやつと根競べをすることにしたのだ。
しかし、いつまで待ってもやつの、「アーン、アーン」という不安の声がしてこない。変だな、と思って物影からそーっと顔だけ出して見ると、いつのまにかわたしの隠れている物陰のすぐ裏側まで移動していたやつが、「わっ」とやる準備をしていた・・・。

(2001・3・17)


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