白いコートのあの人

これは、’93年8月に発行したテレビドラマ「刑事貴族2・3」のパロディ同人誌「あの日話してくれたのはきっとほんとのきみの夢だった」に載せた文の再録です。説明が足りないところ以外ほとんど変えてません。


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その日は夕方から、「刑事貴族3」の前期の最後の回(拓(宍戸開)と夏美(鳥越マリ)が転勤になる話)の放送があることになっていた。
再放送なので、わたしは話の内容はもちろん、こまかいセリフや場面転換のタイミングや、BGMまでもがすべて頭の中に叩き込まれていた。
しかも、この回のロケ地は、F町とG市なのだ。
(※注:F町はこの文を書いた当時ぽんたが住んでいた場所、G市はその隣の市。)
そして。
この日は再放送を記念して、F町とG市で「一般公開模擬ロケ」なるものが行われることになっていたのだ。
もちろんわたしは友達のJに声をかけて見に行った。
だいぶ天気が悪かったが、わたしは商店街を走り抜ける本城さん(水谷豊)のバンプラや、元荒川の桜並木で犯人を追う本城さんとカズくん(彦摩呂)を目の前で生で見ることができた。
他の代官署のメンバーも、課長(松方弘樹)とたけさん(地井武男)以外ほとんどいた。
しかし、あの人はいなかった。
あたりまえだ。これは「刑事貴族3」だ。
あの人が出ていたわけがない。
(※注:あの人というのは、「刑事貴族1・2」に南刑事の役名で出演していた山田善伸という役者さんのことである。とても背が高くてカッコイイ人で、当時かなり注目していて何を隠そうわたしのペンネームのひとつ「山田理矢」の「山田」はこの人から勝手にいただいたぐらいなのだが、ドラマの中では目立たず「刑事貴族2」が終わったところで何の設定もなく消えてしまった。)
―――――だがしかし。
わたしは心のどこかで、あの人が今日来ているような気がしてならなかった。
この勘が当たることをひそかに祈っていた。


さて、ロケはどんどん進み、ラスト。
JR G駅前の公園で刑事たちが犯人を追いつめるシーンになった。
公園の外は見物人でいっぱいだったが、わたしは運良く公園の中にまぎれ込むことができた。
そのとき。
わたしの目は、公園の外の見物人の波にまぎれもなく、白いコートを着たあの人を見つけたのである。
わたしはあの人を見失わないよう必死になり、今日のこの大イベントのことなどすぽーんと忘れ、ひたすら早くロケが終わることを願った。
やがてすべてのシーンが終わり、スタッフも役者さんたちも現地解散ということらしく、代官署の刑事たちはあっというまにそれぞれのファンたちに群がられて見えなくなってしまった。
わたしはあの人から目を離さないように気をつけながら、この会場で会えるはずだったJを探した。
幸い、誰もあの人が来ていることには気づいていないようだ。
確かに、あの人が白いコートを着るなんて、しかもそんな姿で今日この場に現れるなんて、誰も思わないに違いない。
しかし・・・いかにこの、毛の生えた心臓がヨロイ着て歩いてるような無神経といわれたわたしでも、相手はテレビに出ている役者さんで、わたしの大好きな人で、まったくの初対面なのである。
ファン心理ってものにも恋愛感情にもぜんっぜん縁のなかったわたしが何を話しかけていいものやらわからずキャーキャーあせっていると、やっと出会えたJがいっしょについて行ってくれた。わたしはとにかく、勇気を持って呼び止めなくてはとあの人に近づいた。
そして、こともあろうに、こう言ってしまった。

「あの、南さん!」

わたしは即自分の犯したミスに気づき、一瞬青ざめた。
が、あの人は笑ってこう言ってくれたのだ。

「あ、どっちでもいいっすよ。なに?」

Jも横から突っついてくれて、わたしは続けた。

「あたし刑事貴族2見てて、すっごくあなたのことファンなんですっ。
あの、もしお忙しくなければちょっとおしゃべりしてもらえませんかっ?」

あの人は、そんなに驚いた様子もなく、面白そうにわたしのほうを見てにっこり笑い、

「えっほんと?うれしいなあ。いいですよ。」

と答えてくれた。
わたしはもううれしくて、ショージョマンガの主人公みたくかわいいふりなんかしくさって「こんなことが、現実にあるんだなあ」なんて考えていた。
わたしたちは、駅前の大きな立体交差の歩道橋のほうへ歩いて行った。
ちょうどそこでアクセサリーを売っていた兄ちゃんとJが知り合いらしくて、(気をきかせてのこともあってか)彼女はそっちへ行ってしまったので、わたしはあの人と二人きりで話すことになった。
不思議と、話は途切れなかった。
わたしはさほど緊張もせず、普段友達やバイト先の人と話すようなとりとめのないことをあの人を相手にしゃべることができた。あの人はあきれもせず、にこにこしながら聞いてくれた。
ああ、こんな、有名なテレビドラマにレギュラーで出演したような人が、全国にファンもいっぱいいるだろうに、わたしみたいなブサイクな女のくっだらない話に付き合ってくれるなんて。
ファンであることすらいやがられても仕方がないのに。
こんなことってあるんだなあ。
こんないい人もいるんだなあ。
わたしはずっと、そう思っていた。
何を話したか詳しくは憶えていないが、話している間中わたしはあの人への呼びかけをずっと「南さん」で通してしまい、途中気づいて謝った。
が、あの人はまた
「どっちでもいいから、気にしないで。」
と言ってくれた。
ひとしきり談笑したところで、
しかし、わたしは突然、思った。

時間がない。

そう、わたしは急に、なぜだかあの人との別れが身に迫っていることを感じたのだ。
どうしよう、別れたくない。
わたしはせっぱつまって頭がおかしくなったのか、あの人の気さくさに思い上がったのか、つい大胆なことを口にしてしまった。

「あの、あたしとこんなにしてしゃべるのやじゃないですか?」
「えっぜんぜんそんなことないよ、楽しいよ。」
「そうですか、ありがとう。
・・・これからも、こうやって時々しゃべれたらすっごくうれしいんだけど。」

すると。
あの人はこう言うではないか。

「じゃあ、電話番号教えてよ。」


そう言われてわたしはうれしかっただろうか。
否。
こんなことが、あるはずがない。
代官署の南刑事がうちの電話番号を知っていてかけてこようなんて、いくらなんでもこんな状況が有り得るはずがない。
何かが、おかしい。
わたしは何か、目に見えないものにだまされている。
わたしはもう一度、あの人の顔をのぞき込もうとした・・・


わたしの目に飛び込んできたのは、フスマの隙間から差し込む真っ昼間の光であった。
アシスタントの仕事に疲れたわたしは、先生の家の押入れの中で、ド○えもん状態で寝くさっていたのであった。


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ええと。
当時もまさか夢オチだとわからない人はいないだろうと思って載せたのですが、中学生の読者さんからは
「あまりのラストにショックで泣いてしまいました。」というお手紙をいただき、同じF町出身の友達からは
「F町でロケがあったなんて知らなかったからびっくりして家族みんなに知らせちゃった。みんな本気にした。」と責められました。
どうなんでしょうかそれは。こんなもんに引っかかる人って、なんかいろんなもん買わされてそうで心配。

「刑事貴族」というドラマはもちろん実在します。
友達のJも、今は切れてますが実際にいる人です。
説明すると、このころわたしは流しのプロアシをやっていて、ある先生の家ではアシスタントは本当に押入れに布団を敷いて寝るのが決まりになっていて、しかもこの日は実際に「ああ、明日は夕方から「刑事貴族3」の前期の最後の回の再放送があるなあ」と思って寝たので、こんな夢を見たのでした。
で、夢の中のうそロケに出てきたシーンの中では、唯一G駅前の風景だけが大ウソであとの桜並木やら商店街は実際にあるとおりなのでした。
あと最後のほうで突然「時間がない!」って思っているのは、これはわたしが夢を見ながら、うすうす夢だと感づいているんですね(笑)
もうすぐ目が覚めてしまうと思って、「早くこれこれこういうふうにならなくちゃ」って夢の中のストーリーを急がせたりするんです。そういうことをすると目が覚めたとき、ものすごい疲労感が残っていたりします。

ていうか
’93年って、9年前か。
9年前からこんなもん書いてたんか、オレ・・・。

(2002・2・7)

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