アイタタな人たち・其の1

先月からwebと通販とイベントで同時に
「昔作った同人誌の無料配布」の宣伝をおっぱじめまして、
まあぜんぜん期待はしてなかったわりにおかげさまで
元々在庫の少なかったものは1〜2冊を残すのみとなりました。

そのうちの1冊が「アール・ガーデン」という
’98年に発行したホラー少女マンガ本なのですが、
読んでくださった方はごぞんじですが
じつはこれは当時交流のあった女友達と
1本ずつマンガを描いた合同本だったりします

仮にRさんとお呼びしますが
彼女と半分ずつ印刷代を出し合って作り、彼女のほうも自分でスペースをとって即売会に出たりしていたので在庫も半分ずつ持つことにしたため、売れ残りの冊数も通常より少なくてすんだのでございます

さてこのR嬢ですが
歳はわたしと同じなんですが、当時の肩書きあるいは職業ということになりますとちとびみょうでして・・・
「漫画家」という呼び名を、
「一度でも商業誌にマンガが掲載されて原稿料をもらったことがある人」と定義するならば彼女は間違いなく漫画家なんですが、
まあ詳しく説明するなら

「普段は実家でマンガを描いて投稿や持ち込みなどの営業活動をしていて、そのうち1〜2度採用されたこともあるが、会社がつぶれてしまったり連絡がこなくなってしまったりして継続した掲載はされていず、たまーにアシスタントをしてこづかいを稼いでいる」
という立場の人物でありました。
まあこれはひんぱんにつきあうようになって話すうちにだんだんわかってきた事実なわけですが

最初は単に、おたがい同い年でマンガを描くようになった年代も、デビューを意識しだした年代もいっしょで、しかもおたがい投稿作などの営業用原稿を同人誌にまとめていて、その上達の度合いも同じようなかんじだったのでなんとなく通じるものがあるような気がしたわけでして

まあはっきりいって当時わたしの周りにはこんなかんじで生きてる人物なんてごろごろいましたし、当のわたし自身もこの頃はすでに違ったものの20代はじめ頃までは、口先と気持ちだけはこれじゃだめだとわかっていてあせりつつも現状はこんなようなもんだったので、
まあ本人が何の疑問も持っていないのなら他人の人生にとやかく口出しすることもないしできる立場でもないなと。

ところが話してみてまず自分と違うなと思ったことは、

この人マンガ1本描くのにどうも
3か月とか半年とか1年とかかかるらしい

最初は投稿作をまとめた個人誌を読んでいるだけだったので
作品の本数が少ないのは、担当の編集者に製作過程をみてもらってチェックされながら描いているから時間がかかるのかなと思っていたのですが

たしかにそれもあるけど
単独で勝手に描いてもそれぐらいかかるらしい・・・・・・

はて それではデビューできても
仕事として成り立っていかないのでわ

という疑問が頭をかすめたのですが
まあしかし、
親が「女の子なんだからべつに自分で稼げるようにならなくたって」という考えで育てたのだとしたらそれはそれでありなのかなと(20代後半になっても特にもらってくれる相手はいなそう(←失礼)という事実はさておき)。
そんなこんなで

しばらく即売会で話したり、手紙や電話のやりとりをしたりするうちに
彼女も最近ホラー系のマンガを描くようになったということを知り
「じゃあ合同誌でもつくろうか」と。
はなしはとんとん拍子に進んだのでございます

さて制作日程やページ割などを決めるための最初の打ち合わせ、
といっても都内のとあるレストランで飯を食いながら雑談していたわけですが

早くもそのときの会話で
すでにいやな予感がしたわたし

R 「ねえねえぽんたさんは化粧品とかどこの使ってます??」
ぽ 「えー・・・イヤどことかきめるほどしらないし。
  まあブランドより値段をみてきめざるをえませんが。」
R 「ああ、そうですよね!やっぱり、
  高いもののほうが安心できますものね!」
ぽ 「え・・・・・・・・・」

わたしの口から出る「値段で選ぶ」という言葉を
「高いほうを選ぶ」という意味にとったのは
たぶんわたしの生涯であとにもさきにもこいつだけ

ものすごい失礼ですが
外に働きに出るわけでもなく
男とデエトするわけでもなく
何か月も家でてまてまてまてまマンガ描いてるだけのあなたの
いったいどこにブランドもんの化粧品がひつようなんでしょうか

などと口に出して言うことはさすがにわたしも鬼ではないのでできず
てきとーにうけながしつつ話題は進み
やがてたがいの生活やら収入やらのはなしに

その頃のわたしは、まだエロマンガの世界には足を突っ込んでおらず
定着した出版社ももたず営業活動をくり返し、ぼちぼち仕事をもらいながら
月の半分以上はあちこちの先生のところへアシスタントに行き、
さらに即売会にもこまめに参加し、同人誌を出したり原画展をやったりという
なんだかわからない生活をして小金を稼いでおりました

一応、デビューした会社でもう絶対先がないと読んでやめたあたりから「家を出る」という目標はあったので、とにかく金を貯めるのが先決で、気がついたら仕事の口にあぶれることの絶対にないアシスタント業が本業のようになっておりまして

ぽ 「なんかねー気がついたら去年の年収、アシスタントだけで
  100万超えてたんですよー
  本業の原稿料の倍以上ですよーははは」

みたいなことを申しましたところ彼女のリアクション

R 「ええっっ、ひゃ、ひゃくまんえんですか!!
  すごいですねーひゃくまんえんなんて!!
  さすがですね!ひゃくまんえんですか!
  わあー!」

・・・・・・あの、もしもし?(汗

宝くじに当たったとかそういうはなしじゃないんですが。
1年かかって汗水たらしてひゃくまんえんなんですが。

言いたかないけど20代後半で
年収100万ときいてこのリアクションてどうなの
どういう金銭感覚なの

なんかこういう人って100万あれば豪邸たてて一生遊んで暮らせるとか本気で思ってそうですごくこわい
もしかして彼女のお宅は
日本の領土じゃないんでしょうか

まあしかし
そんなことはマンガとはたぶん関係ないことなので気を取り直しまして

やはりどうやっても彼女は描くのが遅いので
表紙などはわたしが担当することにきめまして
最終的な編集作業はどちらかの家で二人でやり、マンガ作品も描く前にたがいに原案・ネームをチェックしようということになりました

そして数日後
彼女の作品のネームが送られてまいりました

以下 当時の記憶を必死で掘り起こした
「彼女の考えた第一案」です


[主人公のサラリーマンくんには、同じ会社のOLさんの彼女がいます。
この前のデエトはとても楽しかったので、今日も朝からにやけています。
でもつきあっていることが会社にばれるとめんどうなので、会社では気づかれないようにおたがいそっけなくふるまっています。
ある日残業を終えた彼は、ひとめ彼女の部屋の明かりを見てから帰ろうと彼女のマンションに立ち寄り、ものかげからそっと彼女の部屋を見上げました。
しかし彼女の部屋にはまだ灯りがついていません。
しばらくすると一台のタクシーが停まり、中から彼女と見知らぬ男が出てきました。
二人は主人公くんに気づかずマンションに入っていき、やがて彼女の部屋に明かりがともり、間もなくまた消えました。
主人公くんはがくぜんとしました。「彼女は浮気をしているのか!?」
ショックでぼうぜんと立ちつくしたまま、気がついたら朝になっていました。
彼女のマンションに泊まった見知らぬ男がマンションから出てきました。
主人公くんはいそいで彼女の部屋に向かいました。
呼び鈴を押すと彼女が出てきて、そして驚いた顔でいいました
女 「あら、あなたは会社の○○さん
  こんな朝早くから何のご用?」
主 「おい、あの男はだれだ?」
女 「は?あなたに関係ないでしょ」
主 「きみはぼくというものがありながら浮気をしているのか!?」
女 「は?何を言っているの?
  あたしがいつあなたとつきあったのよ!?」
なんと主人公くんは、1回いっしょに食事をしただけで彼女は自分とつきあっているのだと思い込んでしまったストーカーくんだったのです。
「こんな女だったなんて!」
主人公くんは怒りと絶望のあまり
彼女をしめ殺してしまいました。そして
忘れ物を取りに来たさっきの男に発見され
警察につかまってしまいましたとさ。]



・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・ええと。

どこがいいとか悪いとかいう以前にですね。

「ストーカーがいきおいあまって相手の女を殺して警察につかまってしまいました」という話を、はたして金を出してまで読みたい人がいるのかというもんだいですよね。

せめてそのストーカーっぷりをものすごくぶきみにねちねち描写するとか、
ラストものすごいざんこくな殺し方をするとかならまだしもさ・・・

しょうがないからR嬢に電話して正直に思ったことを申し上げました

ぽ 「あの〜・・・これだとちょっと、
  あまりにも“そのまんま”すぎるんで・・・」
R 「そうなんですよねー!あたし
  いっつもそのまんまなはなししかかけないんですよ!
  ぽんたさんみたいにひねった話って思いつかないんですよ!
  アハハ!」

アハハじゃなくてさ

ぽ 「べつにひねらなくてもいいと思うんですけどー・・・
  たとえばこの話をどうしても使いたいなら、
  せめてシーンの順番を入れ替えて
  “殺すに至ったやりとり”をラストまで隠しておくとか・・・」
R 「ああっ!そうか!そうすればよかったんだ!!
  じゃっそうします!!」

え・・・・・・

ぽ 「いやあの。今のはほんの一提案で、
  描くのはあなたなんですからもっと自分でなにか・・・」
R 「ううん、自分で考えてもそれ以上いい案なんて絶対出ないですよ!
  すごーい!一箇所変えただけで
  すごいひねった話になりましたね!!」

どこがですか?

わたしは普段自分では、ほとんどプロとかアマとかっていう意識は持っていないんですが

この人に出会って初めて、なんとなく
「プロになれる人間となれない人間の考え方の違い」というものが
わかったような気がいたしました

もうこの時点で「こいつの描いたものと自分の作品がひとつの本になる」ということがものすごくいやだったのですが
すでにわたしの原案も彼女に見せてしまっていたので、今さら「この企画やめにする」と言って自分一人でその原案を使った本を出すほど鬼にもなれず
さりとてこれ以上時間をかけても彼女がいいネタを作れるとは思えなかったので
仕方なくネームが完成し次第原稿に入り、
もうあとは自分の作品に集中することにいたしました

途中心配なので何度か彼女に進行状況を確認したのですが
ここでまた思いがけない事実が。

ぽ 「どうですか原稿は」
R 「あーはい、やってますー。
  でもやっぱり描くのおそいですー。」
ぽ 「ね、なににそんなに時間かかるの」
R 「あー、あのー、時間かかるっていうか、
  1日のうち描いてられる時間が少ないんですよ。」

・・・・・・は?
たしかこの人勤めにも出ていないし実家にいそうろうで家賃の心配もないし
時間だったらわたしよりよっぽどあるはずなんですが。

R 「えっと、朝早く起きて夜早く寝なくちゃいけないんでー。」
ぽ 「は・・・?」
R 「だからー、はたらかないで実家にいるかわりに
  家の習慣は守らなくちゃいけないんで。」
ぽ 「・・・・・・・・・。」

R嬢のおかあさんあんたそれ
娘の教育ぜったいまちがってるよ


まあそんなこんなでいろいろありましたが
どうにか予定通りの期日に入稿も発行もできまして
当初創作少女マンガにしてはそこそこ順調に売れてもいまして
おかげさまで売れ残りも処分しきれそうという事態にあいなりました

彼女ともしばらくはなんだかんだと連絡を取り合っていましたが
やはり何ひとつ先を見ていない人間とは話をしていても得るものがなにもないのでだんだんと疎遠になりまして

たしか最後に電話がきたのは
わたしが実家を出るほんの少し前

R 「なんかさいきんいっぱいしごとしてるみたいですねー
  いいなー」
ぽ 「そうでもないですが。そちらはどうなんですか
  マンガ描いてるんですか。」(←ぜんぜん興味ないけど一応)
R 「あー。あんまりかいてないですー。
  ところでアシスタントのお仕事あったら紹介してほしいんですがー。」
ぽ 「え・・・まあ、あるにはありますけど」
R 「もうほんとに貯金がなくなっちゃってやばいんで、
  さすがにちょっとははたらかないとー・・・」

・・・・・・。

この人の言う「貯金」ていったい、いつどういう手段で貯めて
いくらぐらいだったんだろう。
以前からたまにはアシスタントに行っていたようですが
しかし男マンガならともかく女のマンガ家さんの仕事場では、社員扱いにでもならないかぎりさっき書いたとおり
月の半分以上通っても年収100万ぐらいにしかなりませんので
たまにしか行かないこの人がそんなに6ケタ7ケタ貯めていたとも思えない

今はよくてももしこの先親が死んだりしたら
この人この金銭感覚で生きていけるんだろうか

一応その頃お世話になっていた先生に電話で彼女のことを伝えましたが
「マンガを一本描くのに半年かかる人」ということも
くれぐれも伝えてしまいました

その後彼女がどうなったかは知らない

教訓:誰かと共同でものをつくるときは
   くれぐれも相手を選ぼうね。
   ・・・後後こんなとこでネタにされたくなければ。

(2002・11・12扉ネタより)

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